フェイクの鱗を取り除いて、失われた30年を取り戻せ‼
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プロローグ1
★2026年1月、佐々木融氏の『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』というタイトルの新書が日経BPから発売されました。
佐々木氏は、収集した最新のデータを使って日本経済と国民生活の実態を暴露し、資本主義的生産様式の社会における金融業界に身を置くものとして可能な限りの社会の改善を提案しています。
☆そして、佐々木氏はこの本の「おわりに」において、「本書で様々な日本経済の問題点を指摘しましたが、それらが今のまま変わらずに14年後を迎えるならば、日本経済はかなり苦しい状況に陥っているでしょう。ただ、日本がなくなることはないですから、あまりに苦しい状況になれば、途中で大きな変革が起きて、14年後の時点ではむしろ良い方向に向かっているかもしれません。」とも述べています。
フェイクの鱗を取り除いて、失われた30年を取り戻せ‼
佐々木融氏の新書:『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』を科学的社会主義(マルクス・エンゲルス・レーニン)の思想で読む
このページの構成の紹介
プロローグ2…P2
☆佐々木融氏の言う〝大きな変革〟を発見するために
第二章~第四章…日本の「今」を見る…「失われた30年」の原因とその結果をさぐる…P2
☆現在の「超円安」は日本の「失われた30年の産物」
☆日本の「産業の空洞化」を見る
☆☆「産業の空洞化」への過程を見る
☆☆1995年以降の財界(資本)の動向を見る
☆☆この間の「産業の空洞化」に関わる諸指標の大雑把な推移
☆☆米国トランプ大統領の誕生とその帝国主義的政策に従属する日本
☆☆「産業の空洞化」がもたらしたもの
☆「失われた30年」間の政府・自民党の政策…後は野となれ山となれの借金財政
☆☆借金依存の日本政府と佐々木氏の危機意識
☆☆ここまでの、マルクス経済学による解説
☆2022年から顕著になったインフレの原因は?
☆☆佐々木氏の見解とブルジョア経済学
☆☆追補1─「労働者の賃上げ」で企業が潰されるのか?
☆☆追補2─日本の〝神風〟と中国の〝神風〟の違い
☆第四章の残念な「節」とそれに続くタイトルを間違えた「節」
☆一つに繋がった「円安」から抜け出せない理由
☆企業任せが「産業の空洞化」を産む
☆日本の貿易赤字国への転落は「円安」と「産業の空洞化」の所為
☆日本の構造的円安に警鐘をならす佐々木氏
第六章…「失われた30年」は、なぜ失われたのか…P15
☆「第六章」で述べられていること
☆佐々木が問題にする「昭和の時代の日本型雇用システム」(その真相と「AI時代」の認識で欠
けているもの)
☆佐々木氏、著書『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』の本丸に攻め込む姿勢を示す
☆外国企業は来ない、日本企業はお金はタンマリあるのに国内に投資しない(何とかしなければ
という佐々木氏の思い)
☆財界と政府・自民党とマスコミによる連携プレーを見ない佐々木氏
☆インフレ、円安、国富流出からの脱却の道
☆佐々木氏の言葉足らずの素晴らしい文章と残念な文章
☆玉石混交の文章
「おわりに」…P23
☆私たちが『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』から学ぶべきこと
☆私たちが米国トランプ大統領から学ぶべきこと
フェイクの鱗を取り除いて、失われた30年を取り戻せ‼
佐々木融氏の言う〝大きな変革〟を発見するために
★このページは、「フェイクの鱗を取り除いて、失われた30年を取り戻せ‼」という、青山が、今、皆さんに最も訴えたいこと──それは、佐々木氏が「おわりに」で述べた〝大きな変革〟がなぜ必要なのかということ──を、佐々木氏の著書に収集された最新のデータと氏の考えと対話しながら、みなさんと一緒に考えたいとの思いから編集いたしました。
★皆さんも、是非、『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』を読まれることを推奨いたします。
☆なお、佐々木融氏は、このホームページの6A-1-7「3月28日放送のBSテレ東「NIKKEI NEWSプラス9」に思わず大笑い!!」(2024年4月公開。是非、お読み下さい。)にも永濱利廣氏(現経済財政諮問会議民間議員)と共に「出演」していただき、二度目の「出演」となります。
現在の「超円安」は日本の「失われた30年の産物」
★佐々木氏は「はじめに」で、「一言で言えば、現在の『超円安』は日本の『失われた30年の産物』だと思います」と言います。まったく、その通りだと思います。
「第一章」の「相場」の話は飛ばして、「第二章」から佐々木氏との対話を進めたいと思います。「第二章」で佐々木氏は、「1ドル=360円よりも今の方が(円が──青山補足)安く」、「円はドルに対してだけではなく、他通貨に対しても弱い」ことを「国際通貨研究所」や「BIS」等の資料を引用して説明し、いよいよ本題の現在の「超円安」の「要因」に論を進めます。
●なお、ここで注目し、記憶に留めておいて欲しいのは、BISの「(図表9)円の実質実効レート」が示すとおり、〝実質実効レート〟で円を見ると、日本の「産業の空洞化」が顕在化する1995年頃まで円高が進行し、それ以降は円安が進行し続けていることと、「国際通貨研究所」の「(図表7)米ドル/円相場と購買力平価」が「2022年以降のドル/円相場」が「消費者物価で計算した購買力平価を大きく上に抜けて上昇」していることを示していることの二点です。「1995年」頃と「2022年」以降という、この二つのターニングポイントを、是非、心に留めておいて下さい。
★佐々木氏は、「円が極端に弱くなった」理由(「要因」)として①「マイナス圏に大きく落ち込んだ実質金利」と②「日本から海外への資金流出の増加」の二点(P77~83参照)をあげ、①の原因は「インフレ率が大きく上昇しても、金利を引き上げなかったから」だと言い、「なぜ日本銀行が政策金利をインフレ率並に上げられないのかに関しては後ほど説明します」と述べて、この場では、残念ながら、触れられませんでした。
☆続けて②「日本から海外への資金流出の増加」について、その「最も大きな」ものが「対外直接投資」であることを指摘し、「(図表18)対外直接投資(国・地域別)」を示して、2024年には対外直接投資が「30兆円規模にまで膨らんでいます(図表18)」と述べ、「こうした日本企業の投資の国外への流出は、日本の「失われた30年」を象徴しているのだと思います」と言います。
○なお、(図表18)は国・地域を米国、欧州、アジア及びその他と別けていますが、2011年以降、米国及び欧州への直接投資が急拡大し、2024年には米国だけでアジアとその他を合計した額に匹敵する額まで増えていることがわかります。これは、次の「項」〈日本の「産業の空洞化」を見る〉でより詳しく見ますが、1996年に経団連が発表した「豊田ビジョン」及びそれを引き継いで発表された2003年の「奥田ビジョン」での東アジア中心の直接投資を2007年発表の「御手洗ビジョン」がその重点を修正し、同時に、非製造業への直接投資への比率を高めたことによります。
☆そして佐々木氏は、「第二章」の最後で、「現在まで続く対外直接投資の流れの大きな原因は」「円高は『投機筋のせい』として」「76兆円の円売り介入」して「『鏡に映る実体経済から目を背け続け」、「行き過ぎた円高がなぜ生じているかを分析して構造改革を進めなかったために、日本企業に逃げられてしまった』ことだと考えています」と言い、同時に、佐々木氏は、「1990年代~2000年代の実体経済の歪みは」「大きく膨らんだ貿易黒字と、内需の弱さ、証券投資の自国バイアスの強さだったのではないかと考えています」と述べ、そのことに「本当は気が付いている人は多かったと思います」とも言います。
●そもそもなぜ円高になったのか、そして、なぜ、〝実質実効レート〟で円を見ると、日本の「産業の空洞化」が顕在化する1995年頃まで円高が進行し、それ以降は円安が進行し続けているのかをみるために、当時実施された〝構造改革〟とはどのようなもので、構造改革の主体は誰だったのか、そして日本の「産業の空洞化」はどのように進行したのかを、一緒に、見てみましょう。
日本の「産業の空洞化」を見る
★このページの円滑な進行のために、日本の「産業の空洞化」について大雑把に見ておきましょう。詳しくは、ホームページ1「今を検証する」の各ページを、是非、ご覧下さい。
「産業の空洞化」への過程を見る
★先進資本主義国の生産力が高まり、脱工業化(資本主義の歴史的使命の基本的な終了)がブルジョア経済学者から叫ばれはじめた1970年代中盤以降、日本の大企業は、自己資本比率を年々高めるとともに海外で利益を上げることに、一層、重心を移しはじめます。
そして、1981年3月16日に発足した第二臨調は資本の海外展開を積極的に支援する方針を明確にし、輸出中心の一本足打法での資本の拡大から海外の安い賃金を使っての資本の拡大に完全に舵を切りはじめます。
☆さらに、プラザ合意(1985年9月22日)を受けて1986年4月7日に報告された前川リポートは、①国際分業を促進するための積極的な産業調整②直接投資の促進③基幹的農産物を除く、農業の切り捨てを提言します。
これらを槓杆に、グローバル企業の製品、資本両面の輸出が加速され、円高を背景とした積極的な対外直接投資の急増が製造業の空洞化を促進し、当時の通商白書は、「空洞化」を「海外直接投資の増加による国内の生産、投資、雇用の減少」と定義します。この1985年のプラザ合意後の円高期を日本の「産業の空洞化」の第一期と見ることができます。
★そして、日本の「産業の空洞化」は、深刻さを増し、九二年版『通商白書』が、「企業活動の国際的展開が進むにつれ、従来の国家と企業との関係にも変化がみられるようになってきている。……ある国の資本による企業の利益がその国民の利益と一致する度合いが減少しつつある」と述べ、「国際展開が進んだ企業は資本の国籍にかかわらず、現地の雇用者を多数擁し、現地の市場を中心として財・サービスを提供する。したがって自国籍企業の収益向上が直接に国民生活と関係するところは、収益の分配が主として当該国の投資家にたいして行われるという点に限定されていく傾向を有する。さらに投資家が国際的に分散していけば、その意味すら失われる」と言うに至るところまで進行します。
☆そして、遂に、1995年には、富の流出・雇用の流出・市場の収縮・社会の収縮という「産業の空洞化」が誰の目にも明らかになり、1995年以降、国内の設備投資は低迷し、GDPは伸びず、雇用需給が変化して労使の力関係が変わり、輸出拡大を口実に賃金は抑制され、現在に至るまで労働者の賃金は横ばいで、資本主義的生産様式が本来持っているはずの「好景気」での労働者の「いっときの生活改善」すら出来なくなり、非正規雇用が激増しはじめ、長く続く国民生活の低迷が本格的に始まります。
1995年以降の財界(資本)の動向を見る
★1996年1月、豊田章一郎経団連会長が発表した「豊田ビジョン」は、「アジア諸国との分業ネットワークを推進する」ことを通じて、「最適な事業体制の構築」と「生産拠点の海外移転、海外生産比率の引き上げ」ることを宣言し、「今後のメガ・コンペティション(大競争)の時代にあって、……人材の流動化は避けられない」として、企業の社会的責任を完全に放棄し、政権党である自民党は、スポンサーである財界と労働者とのいざこざを防ぐため、「就労機会の確保」とは真逆な「非正規雇用の拡大」のための施策を推進します。
○グローバル経済の痛みを誰もが感じはじめ、九二年版『通商白書』さえもが企業の「収益の分配が主として当該国の投資家にたいして行われるという点に限定されていく」ことを警告していたこの時期に、企業を社会の公器として財界と自民党が見ていたならば、日本経済の健全な発展と国民生活の向上のために国内産業への投資をしっかりとおこなうべきでした。
●問題をすり替え、国民をミスリードするために「〝日用品〟を作っているから日本はダメなんだ。高付加価値の製品を作らなければならない」ともっともらしいことを言う人がいます。しかし、今の日本がダメになったのは、十分な力を持った企業が国内に十分な投資をせず、国民生活に必要な〝日用品〟生産の主要な部分を海外に持ち出し、国内が厚みのない産業構造になってしまったからです。国民は〝日用品〟を日々使わなければ生きていけませんし、〝日用品〟を作る製造業の発展こそが生産性を向上させる原動力であり、生活を豊かにし〝余暇〟を生みだす源泉です。そして、傑出した〝日用品〟が高付加価値を生み、そのような製品やサービスを生み出す企業の努力の積み重ねこそブランド力を持つことに繋がるのです。
●国民無視の「豊田ビジョン」によって、国内には取り残された中小零細企業と生産性の低い(労働集約型の)サービス業が残り、国内で生産を続ける大企業は「一円でも多く利益をあげる」という「資本の唯一無二の行動原則」にもとづいてコストカットに励み、低賃金と低価格商品による経済の一層の弱体化を促進し、相次ぐ品質不正の体質まで身につけてしまいました。
★2003年1月、「豊田ビジョン」から七年ぶりに奥田碩日本経団連会長は、日本経団連の長期ビジョン「活力と魅力溢れる日本をめざして」(「奥田ビジョン」)を発表します。
「奥田ビジョン」は、東アジアへの「資本」(財界)による富と雇用の輸出を一層推し進めるというもので、〝日本経済空洞化計画〟とでもいうべき「豊田ビジョン」の延長線上の構想です。
★2007年1月、御手洗冨士夫経団連会長は「希望の国、日本」(御手洗ビジョン)を発表します。「御手洗ビジョン」もまた、相変わらず、〝日本経済空洞化計画〟とでもいうべき「豊田ビジョン」の延長線上の「資本」(財界)の利益だけを求めた、日本国と日本国民の生活を無視した構想でした。違いは、「奥田ビジョン」の東アジアから、インド及びオーストラリア、ニュージーランド、そして、米国とアジア太平洋地域にまで触手を伸ばしたことです。
★時を経て、経団連は、2024年12月9日、2040年の日本のあるべき姿を描いた『FUTURE DESIGN 2040「成長と分配の好循環」〜公正・公平で持続可能な社会を目指して〜』(以下「FD2040」という)というビジョンを発表します。
「産業の空洞化」が極まり、国民生活の危機が深刻化するなかで発表された今回のビジョンは、さすがに、「資本」(財界)の利益追求一本やりの〝いけいけどんどん〟の「豊田ビジョン」や「奥田ビジョン」、「御手洗ビジョン」とは異なり、「社会保障の財源である消費税収と社会保険料収入では給付を賄えない状況」であることを認め、応能負担(富裕層の負担増)を徹底を主張し、「これまでの日本経済低迷の要因の一つは、国内設備投資の低迷とされる」と認め(?!)、政府に対しあれこれとおねだりをします。しかし、企業の社会的責任など歯牙にもかけない「経団連」は、「成長と分配の好循環」の「結果として投資超過主体へと転換」するなどと本末転倒のことを述べて、国民をペテンにかけようとしています。※
※詳しくは、ホームページ1-4-2〈2024年「経団連」ビジョン「FD2040」の告白とウソとタブー(その1)〉を、是非、参照して下さい。
この間の「産業の空洞化」に関わる諸指標の大雑把な推移
★製造業の従業者数の推移:1995年から2005年まで5年毎に約90万人ずつ減り続けた。
★非正規雇用:1985年:約600万人、約15%→1995年:1001万人 、20.9%→2022年:2101万人、36.9%
★製造業の海外生産比率:2001年以降も減少し続ける国内生産比率。
2001年:24.6→2005年:29.2→2010年:33.3→2015年:35.6 →2019年:33.9
※なお、2019年度は、年度末にかけて、新型コロナの感染拡大により売上げ・生産いずれも大きく影響を受け、これまで上昇基調にあった海外売上・生産比率はおよそ10年前の水準まで逆戻りし、過去最大に落ち込み幅を記録した。
★日本の貿易輸出額の推移(単位:10億USドル):貿易輸出額は、1995年(平成7年)まで順調に伸びたが、2002年まで足踏みをし、その後、2008年まで伸び、2009年に急落し、その後2011年にピークを付けた。
※参照。1980年:130.44→1995年:443.12→2002年:416.73→08年:781.41→09年:580.72→11年:769.77→17年:798.57
★日本の設備投資:停滞の20年。総量1割増どまり。(2021/12/05「日経」電子版)
生産的資本ストックの増加率(OECD、2000年~2020年)
日本:9%増、米国:48%増、英国:59%増、フランス:44%増、ドイツ:17%増
経済成長率(2001年~2019年、年平均)
日本:0.8%、米国:2.1%、英国:1.8%
※「日本企業も海外では積極的にお金を使う。対外直接投資はコロナ前の19年に28兆円と10年前の4倍に膨らんだ。コロナ後も流れは変わらない。」(同上電子版)
★海外直接投資残高の推移と内訳及び2022年12月末現在の地域別内訳(2017年12月末のデータを除き、「第一ライフ資産運用経済研究所」のウエーブサイトからの引用)
●海外直接投資残高の推移と内訳
2009年12月末(製造業32.6兆円+非製造業35.6兆円)68.2兆円→2017年12月末174兆6990億円→2022年12月末(製造業97.7兆円:37.8%+非製造業160.8兆円:62.2%)258.5兆円
●2022年12月末現在の海外直接投資残高の地域別内訳
アジア:72.0兆円、北米:93.2兆円、中南米:14.2兆円、大洋州:12.4兆円、欧州:64.8兆円
※上記の国別順位トップテン:米国、オランダ、中国、英国、シンガポール、オーストラリア、タイ、韓国、スイス、香港
米国トランプ大統領の誕生とその帝国主義的政策に従属する日本
★2016年の米国大統領選挙で、オハイオ州、ペンシルベニア州等具体的な地域をあげて産業空洞化の深刻さを指摘し、企業が海外に流出し雇用が海外に盗まれていることを述べて当選したトランプ氏は、公然と「アメリカファースト」を掲げ、①貿易の不均衡の解消による雇用増での「白人労働者層の支持」の維持、②先進資本主義諸国に対する米国へのより多くの経済的利益の要求、そして、③米国の経済優位を脅かしかねない中国の技術開発の抑制と貿易赤字の解消をめざし、世界に圧力をかけ続けました。
そして、4年間のバイデン政権をはさんで2025年に復活したトランプ大統領は高関税で世界中を脅し、米国産品の輸入拡大と米国への投資の拡大を迫り、米国に従順な日本は、生け贄の第一号として、2025年7月に総額約5,500億ドル(約80兆円)の対米投資を合意させられます。
☆2011年以降、日本は対米直接投資を増やし続けた結果、現在、米国が国別直接投資残高でトップとなっていますが、強引な帝国主義的政策によって必死に「産業の空洞化」を克服しようとするトランプ大統領への総額約5,500億ドル(約80兆円)の対米投資の約束は、日本国と国民のことを一顧だにしない「資本」(財界)と自民党の本質をよく現しています。
「産業の空洞化」がもたらしたもの
★資本主義的生産様式の基で、経済のグローバル化が進む中で、身勝手な私「企業」は一円でも多くの利潤の獲得を求めて国を捨て、「資本」と雇用を他国に持ち出すことによってその社会的生産の責務を放棄し、必然的に「産業の空洞化」をもたらします。「産業の空洞化」によって、高い生産性を獲得した〝富の源泉である製造業〟が海外に出て行った結果、生産性の低いサービス業の比重が増し、経済の低成長と「産業の空洞化」によって弱体化させられた労働組合の影響力の低下により労働者の非正規雇用が増大し、低賃金が長期にわたって続く道をたどることとなり、その結果、年金・福祉・医療の基礎が掘り崩され、生産手段を持たず社会的分業の恩恵を受けることを前提に暮らしが成り立っている労働者階級の暮らしは厳しさを増し、結婚・出産・育児・教育という人間の再生産そのものが制約され、社会全体が極めて脆弱なものとなり、国民は政府による支援をことあるごとに求めざるを得なくなってしまいました。
「失われた30年」間の政府・自民党の政策…後は野となれ山となれの借金財政
借金依存の日本政府と佐々木氏の危機意識
★佐々木氏は、まずはじめに、「第三章 日本政府の借金はなにが問題なのか」で「(図表20)日本国の財務諸表(2023年度)」を示し、2023年末時点で政府の負債が1474兆円あり696兆円の債務超過であることを述べ、日銀が1999年に導入したゼロ金利政策と「量的・質的金融緩和政策などを通じて大量の国債を購入してきたこと」がそれを可能にした「重要な要因」だと言い、「日本の国債発行は長年、日本銀行の超低金利政策と積極的な国債購入に支えられてきました。」と断言します。
☆続けて佐々木氏は、「インフレ期待がデフレ以前の世界に戻っていくのであれば、日本の金利水準もデフレ以前の世界に戻らなければならない」ので、「ある程度機械的に試算した結果では、今後金利が1%上昇し、その後、その水準で横這いで推移したとしても、2034年度には利払い費が34.4兆円となることになります。2024年度と比較すると、10年で3倍以上、25兆円程度増加することになります。これは2025年度予算の消費税収と同じ額です。」と「財政制度等審議会」の試算をもとに言います。
●今(2026年)、一時的に食品の消費税をゼロにするかを巡って、消費税を福祉と勝手に紐付けて福祉の抑制を図ろうとする人たちは、食品の消費税をゼロにすると福祉が削られることになるなどと、庶民の味方のような、もっともらしいことを言って「食品の消費税をゼロ」にすることに反対しています。しかし、この人達の多くは有識者として政府の「審議会」等に参加したり、マスコミ等を通じて、オピニオンリーダーとして、多額の国債発行を含む政府・自民党の政策に加担してきた人たちです。「2025年度予算の消費税収と同じ額」が利子としてすっ飛ぶような多額の国債発行を行ってきた政府・自民党の太鼓持ちのような人たちが、〝何をか言わんや〟と呆れるばかりです。
★そして佐々木氏は、日本の国債発行残高増加の理由──本当の問題──として、①(「産業の空洞化」のもとで、歳出予算の不足を補ったり、賃金が上がらない国民の支援をするために──青山補足)「給付金・補助金のような形で国民に配布する」など、建設国債以外の債務超過になるような国債の発行による政府の資金の使い方、②「超低金利状態が永遠に続くかのような感覚で」国債を発行した、③日本銀行が「量的緩和政策の名のもとに積極的に国債購入を続けてきた」ことを上げ、「2026年以降の日本の経済で最も懸念している」こととして、国債の莫大な利払いを避ける弥縫策として「政府や世論」が日銀に〝黒田バズーカ〟の再来の圧力をかけ、「日本経済に本格的なダメージを与えてしまう」ことだといいます。
ここまでの、マルクス経済学による解説
★なぜ日本はこれほどまでの借金大国になったのか、マルクス経済学──資本主義的生産様式が持つ独特の経済の法則性を理解し、現在進行形の資本主義経済の動きとその矛盾を明らかにし、資本主義的生産様式の次に来る生産様式の社会を展望する経済学──科学的社会主義の経済学ともいう──で見てみましょう。
☆マルクスは『資本論』の第二部の「第二一章 蓄積と拡大再生産」で、「消費が資本主義的生産の目的であり推進的動機であって、剰余価値の獲得やその資本化すなわち蓄積がそうなのではない、ということを前提としている」単純再生産のもとでは資本蓄積の条件はなく、単純再生産の前提は資本主義的生産とは両立しないこと、資本主義的生産様式における蓄積の条件が、生産手段の生産部門での「拡大された規模での再生産」以外にないことを論証しています。資本主義的生産様式の社会は、マグロが泳ぎ続けなければ生きていけないように、走り続けて「資本」を拡大し続けなければ存続することができません。だから、米国FRB元議長のグリーンスパン氏も「資本主義経済を支えるのは資本投下そのものだ。」(日経HP2019/12/27)と述べているのです。ここに資本主義的生産様式の仕組みによって成り立っている社会の〝宿命〟があります。(*1)
★このような資本主義的生産様式の仕組で出来ている日本で、「資本」は出て行き、「産業の空洞化」が進行したにですから、資本主義国である日本は「国」も「国民」も疲弊するのは理の当然です。だから、資本主義に国民をつなぎ止めるために、赤字国債を発行し、大蔵省造幣局(ちょっと表現が古かったですね!)の輪転機を回し続けたのです。
マルクスは『資本論』で「われ亡きあとに洪水はきたれ!これが、すべての資本家、すべての資本家国の標語なのである。」(大月版① P353)と述べていますが、「資本家国」日本の財界と自民党の面目躍如というところです。(*2)
(*1)『資本論』の第二部「第二一章 蓄積と拡大再生産」の内容の詳しい説明は、ホームページAZ-3-2「エセ「マルクス主義」者の『資本論』解説②「『資本論』第二部を読む」を検証する。」を、是非、参照して下さい。
なお、不破哲三氏は「『資本論』第二部を読む」のなかで、マルクスが資本家の立場に立って「消費が資本主義的生産の目的であり推進的動機」であるということを証明しようとして「単純再生産」のもとでの資本蓄積の可能性を模索する文章を取り上げて、自分の『資本論』を読む能力の無さをマルクスの能力の無さに転化しています。
(*2)「われ亡きあとに洪水はきたれ!──この言葉は、宮廷で宴会やお祭り騒ぎばかりをやっていればその結果はフランスの国債がふえるばかりだという忠告を受けたときに、ポンパドゥール侯夫人が言ったものだといわれている。」(大月版①注解P15)
2022年から顕著になったインフレの原因は?
佐々木氏の見解とブルジョア経済学
★佐々木氏は、「第四章 マイナスの実質金利から抜け出せない円」の最初の「項」の冒頭で、「円が歴史的な割安水準まで弱くなってしまっている理由」として、「前にも述べた」①「実質金利が大幅にマイナスとなっていること」と②「日本から海外への資金流出」の二点をあげ、「私が深刻な問題だと考えているのは、このままでは両方とも改善する方策が見つからないということです。」と日本経済の危機の深刻さを嘆きます。
☆そして、「実質金利がマイナスから抜け出せない理由」として、㋐日銀が政策金利を引き上げると政府の借金の利払い費が増加し変動金利で住宅ローンを組んでいる国民のプレッシャーもあるので「名目金利をインフレ率並みに引き上げられない」ことと、㋑「賃金の上昇」によって「インフレ率が大幅に低下することが期待できない」ことをあげています。
続けて、佐々木氏は、「インフレ率が高いから、それに見合った賃金上昇が必要」という考えは「因果関係が逆だと思っています」と言い、「なぜ賃金を上げなければならなくなっているかというと人手不足だから」であり、それが「インフレ率が高止まりしている」原因だと言うのです。そして、「人材獲得競争に付いてこられない企業は淘汰されます」が「生き残った企業は競争が少し緩和されるので、自社製品やサービスの価格を引き上げることが容易になってきます」だから、「日本の物価上昇率(インフレ率)は高止まる可能性が高く、場合によってはさらに加速する可能性すらあると考えています」と言うのです。
しかし、同時に、「日本の平均年収が、世界2位から24位に急落した理由と弊害」という「項」では、「日本のインフレは供給制約からくるコストプッシュ型のインフレです。また、中央銀行が国債を大量に購入し、紙幣を大量に供給しているという要因もあります」と、これまでの主張(考え)と矛盾することも述べています。
●どちらが正しいのか、マルクス経済学の視点から検証してみましょう。
まずはじめに、資本家階級のインフレの捉え方を現した最新の良い事例がありますので、紹介します。それは、コロナ後の景気拡大・供給不足の基でのインフレが問題となっていた時期の話です。
☆前ニューヨーク連銀総裁のダドリー氏はブルームバーグテレビジョンのインタビューで、2022年12月14日のFOMCの政策金利の利上げとその継続について、「労働市場に十分なスラック(たるみ)をもたらし、2%のインフレ率と整合する形で賃金のトレンドを低下させるには、経済を十分減速させる必要がある」と説明し、2023年3月3日に公表された米連邦準備理事会(FRB)の「金融政策報告書」は「インフレの苦しみ痛感」し、「金融引き締めへの決意を示し」、「物価抑制には労働市場の需給緩和が必要だと強調した」(「日経電子版」)といいます。
★このように、ブルジョア経済学者が描くインフレの構図は、──景気が良くなる→賃金が上がる→インフレになる→金利を上げて景気を冷ます→賃金が下がる→インフレがおさまる──というもので、〝賃金奴隷〟の労働者がインフレを起こす張本人の悪役というものです。
しかし、この構図を見ると、資本主義的生産様式を担う主役であり、トマ・ピケティの『21世紀の資本論』で実証された「r(資本収益率)>g(経済成長率)」という不等式を生み出して拡大し続けている「資本」(企業)はどこにも出てきません。なお、余談で、大昔の話ですが、この主役は、イギリスで「穀物法」を廃止するために、〈「穀物法」を廃止すれば小麦が安く入り「大きなパン」が食べられる〉というキャンペーンをおこない、「穀物法」が廃止されると、物価が下がったからと〈『大きなパン』を祝って10%以上の一般的な賃金引き下げ〉を行ったという話もあるようなずるい人たちです。(大月版『資本論』①P594参照)。
☆このずるい主役の人たちは、政府が金利を上げて景気を冷まそうとすると、どんな行動を取るのでしょうか。
その構図は、金利を上げて景気を冷ます→景気減速下での収益の確保をめざす→人整理や賃金カットで収益を確保する→国民の購買力が低下する→インフレがおさまる→その結果「r>g」という不等式が維持される、というものです。つまり、企業は景気が良く、労働者にも儲けのおこぼれを多少増やして労働者の懐が幾らか温かくなると、価格を上げてインフレをつくっておきながら、その責任を〝賃金奴隷〟である労働者に押しつけ、労働者を悪役にして、場合によっては路頭に迷わせて自らの身をしっかり守るというものです。これが資本主義的生産様式の社会に於ける一般的な「インフレ抑制策」です。
★佐々木氏の「インフレ率が高止まりしている」原因は「人手不足」で「賃金を上げなければならなくなっている」からだという主張が事実を正しく反映したものかどうか、一緒に見てみましょう。
佐々木氏は、1987年の労働基準法の改正に始まり、2019年4月から施行された働き方改革関連法の影響等により一人当たり年間総労働時間が減少し、「2023年春頃にコロナ禍が終焉し、経済が再開して需要が戻ってくると、一気に人手不足の問題が目立つようになった」、だから、「インフレ率が高止まりしている」原因は「人手不足」にあると言います。
●しかし、それでは、佐々木氏が言うように「1987年の労働基準法の改正」以降一人当たり年間総労働時間が減少ているのに、賃上げ率は、1990年以降、急速に低下し、1999年から2022年までの間は2.20%から1.67%の間を上下し続けて、一向に賃金は上昇しなかったのはなぜでしょうか?そして、消費者物価(*)が、2020年を基準にして見ると、1994年~2016年の間は概ね0.95前後で推移していたのが2022年から水準を切り上げ2023年には1.056に上昇し、それを追うように賃上げ率も2023年以降急上昇したのはなぜでしょうか?!
◆2016年以前にも──1965年11月から1970年7月まで57カ月間続いた「いざなぎ景気」を上回る──2002年2月から2008年2月までの73カ月間続いた「いざなみ景気」がありましたが、「産業の空洞化」が進んでいるため、物価も賃金も僅かばかり上がるだけで、本来、好景気のときだけは労働者階級も特別にあやかることのできる生活改善の恩恵も受けることができず、「実感なき景気」といわれました。「いざなみ景気」が象徴するような経済・物価・賃金の状況がこの間ずっと続いてきたのです。
◇それではなぜ、「産業の空洞化」が進んでいるのに、今回、政府や財界やマスコミが「物価と賃金の好循環」と言ってはしゃいでいる現象が起きたのでしょうか。日本に〝神風〟が吹いて失われた30年から脱却できた、中国もイスラエルと米国のイラン攻撃のおかげで〝神風〟が吹いて経済停滞から脱却できるかもしれない、などと言う人もいます。〝神風〟とは、コロナ禍後の供給不足のもとでの景気拡大の中で起きた輸入品を起点とする猛烈な物価上昇のことです。企業は以前とは違い、堂々と製品の価格を上げる理由を得ることができ、十分な利益を確保することもできました。十分な利益を確保することができた以上、従業員にもそのおすそ分けをしなければバチが当たります。だから、2022年から商品の価格を上げ、2023年に賃金を上げたのです。この繰り返しが「物価と賃金の好循環」の正体です。
だから、「日本のインフレは供給制約からくるコストプッシュ型のインフレです。また、中央銀行が国債を大量に購入し、紙幣を大量に供給しているという要因もあります」、と佐々木が言っていることの方が正しいのです。
そもそも、日本の労働者の賃上げ要求は控えめで、GDPの範囲内とか実質賃金の低下を補う程度のものを要求する程度のささやかなものです。可能な限り大きな儲けを狙う、転んでもただでは起きない、企業の商品価格の値上こそが、インフレの出発点であることは資本主義的生産様式の社会の持つ法則そのものです。佐々木氏は、このことをよく分かっているので「人材獲得競争」に「生き残った企業は競争が少し緩和されるので、自社製品やサービスの価格を引き上げることが容易になってきます」と述べているのです。
(*)消費者物価指数の推移の数字は明治安田生命のHPの総務省『消費者物価指数(総合指数・2020年基準の時系列データ)』をもとに作成し資料から借用いたしました。
追補1
「労働者の賃上げ」で企業が潰されるのか?
☆「労働者の賃上げで企業が潰される」かのような論調が世間にはありますので、簡単に見てみましょう。
★各業界が業界として資本主義国において存続するためには、それぞれの業界は全体として「r>g」という不等式が成り立ち、「資本」が資本主義を存続させるための──生き馬の目を抜くような非情な──役割を果たせなければなりません。そして、一般的に、それぞれの業界で働く労働者の賃金は、多少のでこぼこはあっても、業界・業種によって平均的なものに収れんされます。労働者の賃金は、この「平均的な賃金」をベースに企業の支払い能力によって決まるもので、人手不足だからといって、「r>g」という不等式を無視して、名画のオークションのようにウナギ登りに上昇するものではありません。だから、資本主義的生産様式のもとで「人材獲得競争に付いてこられない企業」というのは、労働者の賃金が高騰したから「淘汰」されたのではなく、資本主義的生産様式のもとでの生存〝競争〟に負けて、その業界から退出したのです。つまり、その企業の経営者が資本主義的生産様式のもとでの企業経営者として不適格であったのであって、その企業に働いていた労働者は資本主義的生産様式とそのもとでの企業経営者の犠牲者なのです。
追補2
日本の〝神風〟と中国の〝神風〟の違い
☆ちょっと脇道に逸れますが、「日本の〝神風〟と中国の〝神風〟の違い」について考えてみたいと思います。
★日本の「失われた30年」とは、先にも見てきたように、日本の企業が富と雇用を海外へ本格的に輸出しはじめた1980年代後半に、労働者から搾取した富を自らの国内の事業には投資せず、政府の低金利政策の基で、濡れ手で粟を掴もうと土地や株の購入に資金を投入して投機に走ってバブルを煽り、バブルが崩壊するとともに日本の「産業の空洞化」が明らかになった、しかし、政府・自民党は「産業の空洞化」を企業に止めさせるどころか企業が合法的に非正規職員を増やして海外に出て行くのを手助けして、国内の「資本」が拡大することによって経済を発展させるという資本主義的生産様式の社会の発展のルールを無視し、従わなかったために起きたことです。
だから、日本は〝神風〟によって「物価と賃金の好循環」が起きつつあるように見えても、労働者階級と国民の力によって富と雇用を国内に戻させ「産業の空洞化」を克服しなければ、〝神風〟も単なる空っ風だったと、ぬか喜びに終わってしまいます。
☆かたや中国は、不動産バブルで経済が縮んでいますがイスラエルと米国のイラン攻撃がもたらしつつある世界のインフレは中国の「不動産バブル」を早期に吹き飛ばす〝神風〟となる可能性が十分にあります。なぜなら、中国は日本のように「産業の空洞化」に陥っておらず、経済的な基礎がしっかりあるからです。であるからこそ、2026年5月14~15日のトランプ大統領の訪中に米国経済の中心にいる人たちが挙って中国について行くのです。
第四章の残念な「節」とそれに続くタイトルを間違えた「節」
★話を佐々木氏の『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』に戻しましょう。
佐々木氏は、「構造的インフレと社会への影響──なぜ2億~3億円のマンションが売れるのか」という「項」の「『コストプッシュインフレ』と『ディマンドプルインフレ』の曖昧な境界」という「節」で、「コストプッシュインフレ」も「ディマンドプルインフレ」も視点が違うだけだから「本来は供給を増やす政策を行うべきだ」と根本原因を見ない本末転倒の混乱したことを言い、「また、円安もインフレのひとつの原因」だから「それに対処するには日本銀行による利上げで実質金利をプラスに戻すしか手段はない」と、「マイナスの実質金利から抜け出せない円」という自ら付けた第四章のタイトルに真っ向から逆らって断言します。
●佐々木氏は、成り行き任せに筆を進めるのではなく、「第二章」で「円が極端に弱くなった」理由として①「マイナス圏に大きく落ち込んだ実質金利」と②「日本から海外への資金流出の増加」をあげ、〝実質実効レート〟で円を見ると、日本の「産業の空洞化」が顕在化する1995年頃まで円高が進行し、それ以降は円安が進行し続けていることを示した「(図表9)円の実質実効レート」を掲載したことを思い出し、この場は「『コストプッシュインフレ』と『ディマンドプルインフレ』の曖昧な境界」についての蘊蓄を語るのではなく、第四章のタイトル「マイナスの実質金利から抜け出せない円」との整合性を考えて筆を進めるべきでした。その意味で、「『コストプッシュインフレ』と『ディマンドプルインフレ』の曖昧な境界」という「節」は第四章の残念な「節」とでも言うべきものです。
★そして、この残念な「節」の次に「日銀の国債大量購入がもたらす格差拡大──バラマキ政策で本当に困るのは低所得者層」という「節」があります。内容を吟味すると、「バラマキ政策」で「本当に困るのは低所得者層」という話ではありません。本当に困っている「低所得者層」の支持を引き留めるために政府はいやいやながらも「バラマキ政策」を行わなければならず、その財源を捻出するために国債を発行し、その国債の購入主体が日銀なので貨幣の量が増えてインフレが進み、同時に、「お金持ちはよりお金持ちになります」という話です。だから、この「節」のタイトルは「日銀の国債大量購入がもたらすインフレと格差拡大」とでもするのが適切でしょう。そして、ここで私たちが考えなければならないのは、なぜ「低所得者層」が疲弊し国は国債に頼らなければならないのかという日本の経済構造のあり方の問題です。
●なお、この「節」には、「(図表33)」という図表がありますが、その中の「日本の場合」の図には「投資家・資本家」と「困っている人」の間に矢印がありますが「普通の国の場合」の図には矢印がありません。忘れたのでしょうか、意図通りなのでしょうか?
一つに繋がった「円安」から抜け出せない理由
★佐々木氏は、続く「節」で、貨幣の量が増えてインフレが進むなかで、「ばら撒いたお金が一部の資本家・投資家に集まっており」、その結果、都心の新築マンション価格の急騰が起きていることを述べて、この「項」の最後の「節」である「インフレ税の重圧──政府がインフレ・円安を継続させたい理由」で、「第四章 マイナスの実質金利から抜け出せない円」の理由を「巨額の円建て債務を抱える一方、資産にそれなりの外貨建て資産を保有する政府には、インフレ率を引き上げ、円安を進行させるインセンティブがあるということ」だと言い当てます。
●佐々木氏は、前に見たように、「円が歴史的な割安水準まで弱くなってしまっている理由」(P77~83参照)として①「実質金利が大幅にマイナスとなっていること」と②「日本から海外への資金流出」をあげていましたが、ここで、「マイナスの実質金利から抜け出せない」理由について、「巨額の円建て債務」があるからだと述べています。つまり、佐々木氏はここで、「円が歴史的な割安水準まで弱くなってしまっている理由」は新①「巨額の円建て債務」と②「日本から海外への資金流出」とが原因であるということを言っています。
なお、佐々木氏が、「第四章」の冒頭で上記の①と②について、「私が深刻な問題だと考えているのは、このままでは両方とも改善する方策が見つからないということです」と述べて日本経済の危機の深刻さを嘆いたことは、このホームページの〈佐々木氏の見解とブルジョア経済学〉という「節」で見てきましたが、①が新①「巨額の円建て債務」となることによって、②「日本から海外への資金流出」と①「実質金利が大幅にマイナスとなっていること」が繋がっていることが分かります。
先に、九二年版『通商白書』が、「企業活動の国際的展開が進むにつれ、従来の国家と企業との関係にも変化がみられるようになってきている。……ある国の資本による企業の利益がその国民の利益と一致する度合いが減少しつつある」と述べていることを紹介しましたが、「日本から海外への資金流出」による「産業の空洞化」のツケを国債の増発で賄っているのです。だから、諸悪の根源は「産業の空洞化」を行っている「資本」とその手助けと尻拭いをしている政府・自民党にあるのです。だから、①と②の「両方とも改善する方策」は明らかです。企業が海外へ持ち出した労働者階級が生みだした富を国内に戻して国内産業を復興させればよいのです。
★なお、佐々木氏は「第四章」の最後の「インフレ下での常識は、今までの非常識」という「項」で、インフレの理由について、──インフレは「産業の空洞化」がもたらす円安と〝お金の増発〟の結果であるにもかかわらず──〝お金の増発〟と「人手不足」のせいにしています。万が一「人手不足」で賃金を上げざるを得ないのだとしたら、連続して最高益を続けている企業が利益を少し削って商品の値段を上げなければ良いのです。ニワトリ(企業)が先か卵(労働者)が先かといえば、ニワトリがいなければ卵は産まれません。
企業任せが「産業の空洞化」を産む
★次の「第五章 止められない日本からの資金流出」を見てみましょう。
佐々木氏は、まずはじめに「なぜ経常黒字でも円高にならないのか」という「項」の最初の「節」で「海外で稼いだお金が戻ってこない」理由を述べ、次の「『割安な日本』より『割高な海外』へ向かう日本企業の投資」という「節」で「新たな海外投資もハイペースで続けて」おり、その「行き先で圧倒的に多いのが米国なのですが、米国の平均年収は倍以上です」と述べ、「人手不足」に執着する佐々木氏は「やはり人手不足が問題なのでしょうか」と言います。そして、次の「節」では日本への「直接投資残高の対GDP比は世界で197番目」であることを指摘し、その理由について、「人手不足」に執着する佐々木は「やはり人手不足という問題があります。」と述べ、続けて「もっとも、それは最近のことなので、もっと根深いところに理由があると考えられます。」と言って、「硬直的な日本の労働市場」や「会社の売却にネガティブな印象を持っている」こと等を挙げています。
☆残念ながら、この「項」に書かれている数字は事実を表していますが、文章は真実を表現したものではありません。その理由は佐々木氏が時間軸を無視していることにあります。
★青山は、〈現在の「超円安」は日本の「失われた30年の産物」〉の「項」で、2007年発表の「御手洗ビジョン」が東アジア中心の直接投資からその重点を修正し、同時に、非製造業への直接投資への比率を高めたことを述べ、〈日本の「産業の空洞化」を見る〉という「項」の〈この間の「産業の空洞化」に関わる諸指標の大雑把な推移〉という「節」で、2009年12月末の海外直接投資残高が68.2兆円だったものが2022年12月末には258.5兆円となり、非製造業が35.6兆円から160.8兆円に急増し、2022年12月末現在の地域別残高が北米が93.2兆円で1位、アジアが72.0兆円で2位となり、国別では米国が1位であることを指摘しました。
また、佐々木が財務省資料を加工した国・地域別の日本による対外直接投資の棒グラフ(図表18)を見ると、正確な数字は分かりませんが、日本の対外直接投資の額が2009年には、アジアが1位、欧州2位、米国3位という順位だったのが、2024年には米国が1位、欧州2位、アジア3位と順位が逆になり、米国に着目すると2011年以降急速に伸び、2015年から2019年まで横這いで、2024年には2019年の約2倍になっていることが読み取れます。
●これらから、大雑把に、読み取れることは、財界(資本)の方針として①2007年までは東アジアへの製造業を中心とする直接投資に力点がおかれ、その通り実施され、②2007年以降、非製造業への直接投資の比率を高めるとともに米国と欧州への直接投資の比重も増していった。とくに米国への直接投資は〈日本の「産業の空洞化」を見る〉という「項」の〈米国トランプ大統領の誕生とその帝国主義的政策に従属する日本〉という「節」で見たように際立っており、トランプ大統領への総額約5,500億ドル(約80兆円)の対米投資の約束が示すように、日本国と日本国民を顧みない「MAGA」への奉仕となっています。また、見落としてならないのは、アジアへの多額の直接投資も継続され海外直接投資残高は米国に次ぐ2位を保っているということです。
このように、アジアへの海外直接投資残高が米国に次ぐ2位でいられるのは、「米国の平均年収は倍以上」であってもアジアの労働者の賃金は依然として低く企業にとっては投資妙味が依然としてあり、米国への海外直接投資残高が1位なのは米国による外国企業に対する帝国主義的な政策への日本政府と日本企業の追従と米国の隣にメキシコという米国より遙かに賃金の安い国があるからです。そして、何よりも問題なのは、日本政府が日本国と日本国民のことを考えて日本企業の行動をコントロールしようとしないことです。
企業任せが「産業の空洞化」を産むのです。
日本の貿易赤字国への転落は「円安」と「産業の空洞化」の所為
★次に佐々木氏は「貿易黒字国から貿易赤字国への変貌──4つの要因」という「項」で、2007年以降の赤字幅の大きな業種を4つ挙げて、その原因について述べています。
赤字幅の大きが1位である「電気機器」について、生産の海外移転が「日本の貿易黒字が減少した最も大きな原因」だと言い、2位の「エネルギー」については、「東日本大震災で原発の多くが運転を停止し、原油などのエネルギー輸入が増えた」などと言う主張に関し、東日本大震災前の2010年と比較すると2024年の原油、天然ガス及び石炭の輸入量は減っており、原発の停止が貿易赤拡大の原因ではないことを述べたうえで、最近の「日本のエネルギー輸入額が増えているのはほとんど円安が原因となっています」と述べ、3位の「食料品」については、その原因は「円安要因が大きく影響し、加えて食料品の現地価格自体の上昇も影響している」と考えられると言い、4位の「医薬品」は、「より安価な原料を海外に依存するケースが増えているそうです」と述べ、原料生産の海外依存と円安をその要因と見ているようです。
●このように、赤字幅を拡大させ、貿易赤字国への転落を促した上位4位までのいずれの業種もその原因は「産業の空洞化」(生産の海外依存)と「円安」にあることを佐々木氏は、当然ながら正しく、述べています。そして、「円安」は「産業の空洞化」(産業の衰退、生産の海外依存)がもたらすものです。
日本の構造的円安に警鐘をならす佐々木氏
★佐々木氏は、「第五章」の最後の「項」〈円安は誰にとってプラスなのか──円安で喜ぶ人と苦しむ人〉の最初の二つの「節」で、電気機器、エネルギー、食料品及び医薬品という生活必需品の貿易赤字の拡大という事実は、「単に貿易収支が悪化したという事実以上の深刻な問題を含んでいる」ことを指摘し、同時に、「サービス収支」(2024年は2.8兆円の赤字:図表43)の「いわゆるデジタル関連収支」が「大きく赤字になっている」ことを述べ、「デジタルサービスの購入は、買う側の我々はもはや海外企業の言い値を受け入れるしかなくなっているようにも思えます」と嘆きます。
☆続く「円安は誰にとってプラスなのか──経済的強者にはプラス、経済的弱者にはマイナス」という「節」では、「輸出企業のオーナメント」や「輸出企業の株を比較的多く持っていたり、外貨建て資産を多く持っていたりする」人たちにとって円安はプラスとなることを述べ、「もし、そうした資産をそれほど保有していないのであれば、円安はあなたにとってマイナスです」と、至極もっともなことを述べています。
★次に、2024年までの5年間の日本の税収を米ドル建に換算してみると、「日本の税収は米ドル建てでは減少している」ことも明らかにし、この「項」の最後であり、「第五章」の最後の「節」である「円買い介入には限界がある──日本は通貨危機の1、2歩手前にいる」で、「対外直接投資、貿易・サービス赤字、対外証券投資に絡む円売りは毎年30兆円程度は出ていると考えられ」るので「20兆~30兆円の円買い介入を行っても、時間が経てば吸収されてまた円安圧力が強まる」と言い、日本は「通貨危機の1、2歩手前にいるだけかもしれません」と警鐘を鳴らします。
「第六章」で述べられていること
★最終章「第六章」は、「日本の失われた30年──スイスとイタタリアとの比較」という「項」で始まり、「日本の失われた30年を取り戻すために」と題してその方策を示した4つの「項」によって構成されています。
☆「日本の失われた30年──スイスとイタタリアとの比較」という「項」で、佐々木氏はまずはじめに、バブル崩壊後の「1990年代初めから最近である2020年代初めまでの間」の「日本の失われた30年」の特徴を〝主要国のGDP〟、〝世界の消費者物価指数〟及び〝主要国の平均年収〟の推移の図表を示して、「日本の失われた30年」とは「成長もなく、年収も増えず、物価も横ばい」の時期であったことを指摘します。
☆続けて、佐々木氏は、2000年当時には平均年収が世界2位だったが今や世界24位まで落ち込んでしまった日本と当時も今も世界1位を保っていスイスの経常黒字の質の違い──日本の「黒字はすべて第一次所得収支」であり、なおかつ、海外で稼いだ円が「日本に戻らず再投資される」のに対し、スイスの「黒字はすべて貿易黒字」であること──を述べ、同時に、1990年以降で見るとスイス・フランは円に対してほぼ倍になっていることを指摘して「円高が行き過ぎたから製造業が海外に出ていってしまった」という口実を封じ、日本は生産を「コストの安い海外」に頼り「国内で生産する分については円を安くすることで輸出競争力を高めようとし」たのに対しスイスは「クオリティの高い製品を生み出すために、国内人材も教育し、海外からも優秀な人材を積極的に受け入れた」ことを述べ、「日本経済復活のためには学ぶべきところが多い」と言います。
☆続けて、イタリアが名目GDP・名目平均年収ともに「その他の主要国と目立った差はない」にもかかわらず「実質平均年収」が「日本と同様に横這い状態が続いてい」る点について、「結局、実質GDPが成長しなければ実質賃金も増えないということなのではないかと思います」と言い、「だから円安やインフレで円建ての企業収益や税収が増えるだけでは意味がないのです」と国民に注意喚起し、イタリア経済の問題と思われる点を種々挙げて「日本にも同じ問題があるような気がします」と言います。
★ここまでほぼ正しいことを述べていた佐々木氏なのに、日本の転落の原因を「現状を維持するのが一番良いのだと考え、経済の新陳代謝を働かせず、社会の安定が最優先されてきたのだと思います」と、これまで私たちが見てきた事実と異なることを言います。
◎日本が転落した原因は、〈日本の「産業の空洞化」を見る〉の「項」で詳しく見たように、そして、佐々木氏も企業が生産を「コストの安い海外」に頼り、「国内で生産する分については円を安くすることで輸出競争力を高めようとし」たと述べているように、「資本」(財界)は「現状を維持するのが一番良いのだと考えたのではなく、一円でも多く儲けようと労働者が生み出した富と雇用を海外に持ち出し、国内においては陳腐化した設備の更新程度の設備投資しか行わなかったのです。労働者(国民)が〝富と雇用の海外流失〟を許さず、政府を使って──あたかも、美味しく栄養のある食べ物をつくるために植物にストレスを与えるように──企業に圧力を加えて「資本」の海外流出を阻止すれば、生産過程も生産物も生産者(労働者)も深掘・深耕され、「経済の新陳代謝」が働き、スイスのように「黒字はすべて貿易黒字」という国になっていたことでしょう。しかし、残念ながら、労働者が頼りにすべき自称「科学的社会主義の党」までが「賃金が上がれば経済は良くなる」などとノー天気なことを吹聴して労働者の目を曇らせてしまっていたのです。
なお、佐々木氏は「結局、実質GDPが成長しなければ実質賃金も増えないということなのではないかと思います」と、遠慮がちで、頼りなさそうな記述をしていますが、資本主義的生産様式の社会は、経済成長のない単純再生産の社会では「資本」が「資本」として働くことができず社会が成り立ちません。それでも、単純再生産のもとで無理矢理社会を動かすためには労働者の賃金を以前よりも低くする以外にありません。だから、経済成長は資本主義社会とその基で生きていく賃金奴隷の労働者階級にとって必須の条件なのです。
佐々木が問題にする「昭和の時代の日本型雇用システム」
その真相と「AI時代」の認識で欠けているもの
★佐々木氏は、「第六章」の「日本の失われた30年を取り戻すために」という「項」の①として「昭和の時代の日本型雇用システムから脱却しよう」と、呼びかけます。
☆佐々木氏は、「限界を迎える昭和の時代の人事制度」という最初の「節」で、「時代は変わりました。『大量生産』と『一律の努力』が報われる時代は終わり、代わりに求められているのは個人の専門性、柔軟な発想、そしてスピードです。」と、佐々木氏らしからぬ、味噌も糞も一緒にしたようなことを言います。
○時代が変わっても、日本が今でも世界に誇ることのできる唯一の製造業である自動車産業の各社は、今でも、従業員全員がどれだけ効率的に「大量生産」と「一律の努力」を行うことができるか、しのぎを削っています。そして、労働者階級が経営に参加する資格をもたない日本では、時代が変わっても、資本主義を司る「財界人」たちが「個人の専門性」を生かせる組織作りも行い、「柔軟な発想」と「スピード感」をもって儲けを追求して競争しています。これらのことは今も昔も変わっていません。「昭和の時代の日本型雇用システム」を「脱却」して大きく変わったのは、労働者の健康で文化的に生きる権利を無視して、企業が「柔軟な発想」と「スピード感」をもって儲けを追求するために、非正規雇用が「正規」の「雇用」形態になってしまったことです。
☆また、佐々木氏は、「長期雇用や年功序列とうい仕組みは、安心を与えてきた一方で、変化への恐れを植えつけてしまったのかもしれません。」と、現実を無視したあべこべなことを言います。
○なぜ「現実を無視したあべこべなこと」かというと、「長期雇用」と「年功序列」は低賃金で労働者を雇い、雇った労働者を囲い込んでおくために資本家がつくった制度です。労働者を低賃金で雇い囲い込んでおくために、毎年ベースアップを行い、他の企業へ転職すると給与や退職金などが不利になるようにしたのです。労働者は転職によってより良い待遇が得られるならば「変化への恐れ」など持ちはしません。それは、他国の例を見れば明らかです。かつて、中高年層に「変化への恐れを植えつけてしまった」のは、財界が「産業の空洞化」を進め、国内の生産体制を伸縮自在しして一層の効率化を図るために、政府・自民党を使って非正規雇用の範囲を拡大した現実そのものです。労働者が甘えているのではなく、財界が労働者をむち打っているのです。
★続けて、「人事部の役割を再設計する」、「定期的な人事異動は若手に限定」という「節」で、貴重でもっともな考えを開陳されたあと、「『解雇できない国』という誤解から脱却」と「節」では、先ほどの「現実を無視したあべこべなこと」の延長線上の謬論を展開します。
☆「日本企業に11年勤務した後、米国企業で20年勤務、そしてまた日本企業に戻ってきたという経験」の持ち主である佐々木氏は、──企業は「『一度採用したら辞めさせられない』という誤解」を持ち、労働者は「現状を維持できる」と思っているので、「収入は減っても、本当は自然に囲まれた土地で農業や漁業に挑戦してみたいと思っている人も」、「人間はそれほど強くないので、不満を持ちながらも現状維持を選びます。」──と現実離れしたことを言って、「雇用の流動化」という解雇のススメを述べます。
●「収入は減っても、本当は自然に囲まれた土地で農業や漁業に挑戦してみたいと思っている人」はとっくに辞めているでしょう。先ほど見たように、同じ職種についたとしても「他の企業へ転職すると給与や退職金などが不利になる」のが一般的なので、「人間はそれほど強くないので、不満を持ちながらも現状維持を選」ぶのです。そして、佐々木氏が11年間勤務した日本銀行にも、労働者に何の落ち度がなくても解雇することのできる「分限免職」という制度があるはずですが、佐々木氏も認めるように「日本の解雇規制はOECD平均よりも低く、それほど『解雇が困難な国』ではない」国です。加えて、「日本の解雇規制」に無知な経営者や「日本の解雇規制」を知っていても悪いことをする経営者は後を絶たず、地労委で和解が成立しても金銭による解決がほとんどで、解雇のやり得というのが現状です。佐々木氏は、どうやら、論点を間違ったようです。日本には「ハリーポッター」の作者が世に出れるような環境などありません。労働者をクビにするまえに、「それほど強くない」人間が「不満を持ちながらも現状維持を選ぶ」ことを余儀なくされずにすむような環境の整備こそが必要なのです。
★佐々木氏は、この「項」の最後の「節」である「AI時代に消える社内徒弟制度」で、AI時代の「ホワイトカラーの世界」における「大学院・高度専門教育の重要性」及び企業が「有望な若者を早期に見出し」て「専門知識を勉強させる」必要を述べています。
◎しかし、これは、「AI時代」の一つの対処法──ホワイトカラーの世界で〝AIエイジェント〟を活用するということ──に過ぎません。もう一つのAIの使い道として〝フィジカルAI〟があります。〝フィジカルAI〟について、マスコミや政府は産業用ロボットに強みを持つ日本に大いに期待していますが、青山は、それほど楽観できる状況ではないと思っています。何故なら、日本は「産業の空洞化」により多くの製造業が海外に流出し、〝フィジカルAI〟に学習させる場と学習させるべき「熟練工の技」や「すりあわせ技術」そのものが枯渇しつつあると思われるからです。この意味からも、日本にとって「産業の空洞化」からの回復は、焦眉の問題であることは間違いありません。
佐々木氏、
著書『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』の本丸に攻め込む姿勢を示す
★次に佐々木氏は、「第六章」の「日本の失われた30年を取り戻すために」という「項」の②として「日本に投資・生産を取り戻そう」と呼びかけ、「投資資金だけでなく、知識や経験も国外に流出させてしまっている日本」という最初の「節」で、著書『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』の本丸にいきなり攻め込みます。
☆佐々木氏は、まず始めに、米国は日本の直接投資残高が世界で一番多い国であるが、トランプ大統領との約束によって大統領の任期満了時には2024年末時点に比べ7割も増加することを述べ、続けて、「日本企業が2013年頃から対外直接投資を急増させた理由」として、①円高②サプライチェーンの多様化③日本の需要減少④世界での資本の囲い込み等、日本国と日本に住む人びとの将来など一考だにしない、身勝手な財界(「資本」)の目先の利益を上げるためだけの4つのを挙げ、「その結果、日本の設備は老朽化する一方、新しい設備投資は海外で行われ、日本と海外の生産性の格差が拡がる一因ともなっています。」と、断罪します。続けて佐々木氏は、日本は「国全体として産業を維持し育てていく戦略を採らず、企業が海外に逃げていくのを『円安につながるから』とむしろ歓迎してしまったのです。」「ここが日本とスイスの決定的に違ったところです。」と述べ、著書『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』の本丸に勢いよく攻め込む姿勢を見せます。
◎なお、ここで私たちが留意しなければならないのは、「失われた30年」は「2013年頃」から始まったのでも、「1990年代初め」から始まったのでもなく、〈日本の「産業の空洞化」を見る〉の「項」で見てきたような過程で進展し続け、その過程で政府・自民党は労働規制の緩和を含む新自由主義的政策で「資本」を支援し続け、片や「資本」の悪行を暴き糺す役割の科学的社会主義の党を「自認」する「共産党」は「賃金が上がれば経済は良くなる」と言い続けて、「資本」が作った土俵の上で政府・自民党の新自由主義的政策の非を責め立て続けただけでした。そして残念なのは、「なぜ空洞化するのかというと、日本の国内の需要が冷えているからですよ。だから外に出て行っちゃう」(*1)などとテレビ番組で言って財界を大喜びさせるような科学的社会主義の思想とは無縁な人が、今でも、「共産党」の「議長」になって『資本論』の「講義」(*2)を行って、デマを振りまいていることです。
(*1)2017年10月16日のBS日テレの深層NEWSでの日本共産党の志位和夫委員長の発言です。
(*2)詳しくは、ホームページ3-2-7「『資本論』を〝坊主が天国を語る書〟に変える志位さん」を、是非、お読み下さい。
外国企業は来ない、日本企業はお金はタンマリあるのに国内に投資しない
何とかしなければという佐々木氏の思いの表明
☆このように、日本の失われた30年を取り戻すための②「日本に投資・生産を取り戻そう」という「項」の最初の「節」は著書『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』の本丸に勢いよく攻め込む姿勢を示しますが、残念ながら、以下の各「節」ではそれぞれの「節」に付けられたタイトルの内容を論じているものではありませんでした。
★まず、「対内直接投資が、世界で下から3番目となっている理由を直視する」というタイトルの「節」では、海外からの直接投資が少ない理由を考えることが「日本経済が低成長で活性化しない理由を考える」「ヒントがある」と述べているだけで、「対内直接投資が、世界で下から3番目となっている」ことは「直視」していますが、残念ながら、その「理由」については全く「直視」などしておらず、洛陽の紙価を高めるものではありません。
★続く「海外収益を国内に循環させるために何をすべきか」というタイトルの「節」も、2024年中の第一次所得収支が約40兆円あり、日本の名目GDPの約6%に当たること、海外現地法人の内部留保残高が2023年時点で60兆円台に積み上がっているいることを述べるだけで、「海外収益を国内に循環させるために何をすべきか」という「節」のタイトルには全く答えず「日本企業が国内市場を見限って海外への投資に向かった『失われた30年』」と言うだけです。なお、「日本企業が国内市場を見限った」というのは表層的な認識で、「日本企業」は一円でも多く儲けるために日本国とそこで働き「日本企業」に富をもたらした日本の国民・労働者を〝見捨てた〟のです。
★そして、「日本の失われた30年を取り戻すために:②日本に投資・生産を取り戻そう」という「項」の最後の「節」である「日本人は『生活必需品を自給自足できない島国』の文化的マイノリティであることを自覚する」は、「せめて、生活必需品を自給自足できるような方向で政策を考え、通貨を強くし、購買力を高めておく必要があるのではないでしょうか。」と佐々木氏の希望が述べられています。
●この最後の「節」の文章を読むと、②「日本に投資・生産を取り戻そう」という「項」の趣旨は、「対内直接投資が、世界で下から3番目」で海外現地法人は多額の「海外で再投資」や多額の「内部留保」を抱えているにもかかわらず企業は国内に投資しない、何とかしなければならないという佐々木氏の希望の表明の「項」であり、その対策を表明する「項」ではないことが明確になります。
財界と政府・自民党とマスコミによる連携プレーを見ない佐々木氏
☆いよいよ、佐々木氏の著書『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』の本丸中の本丸とでもいうべき「日本の失われた30年を取り戻すために③:現実を直視し、構造改革を妨げる要因を取り除こう」のという「項」が始まります。
★佐々木氏は、「問題の原因をマーケットに求め、本質的な問題から目を背けてきたきた日本」という最初の「節」で、日本の当局が「問題の原因をマーケットに求め」、それをメディアが「そのまま発信」した結果、国民が「本質的な問題に目を向けるのを止めてしまっています」と正論を述べます。しかし、佐々木氏もまた「本質的な問題から目を背けて」、円高を放置していれば「今ごろ日本の製造業はビジネスの転換に成功して」いたかもしてませんと、氏の希望的観測を開陳するだけです。
◎しかし、残念ながら、、円高を放置したからといって、財界(「資本」)は自らの意思で佐々木氏の希望を満たすようなことは、絶対に、しないでしょう。佐々木氏は「日本企業が2013年頃から対外直接投資を急増させた」4つの「理由」を忘れてしまったのでしょうか。〈日本の「産業の空洞化」を見る〉の「項」で見てきたように、日本企業(財界)は「2013年頃」より遙か以前から、一貫して国と国民を蔑ろにして、一円でも多く儲けようと海外に富と雇用を流出し続けているのです。先に紹介したマルクスの「われ亡きあとに洪水はきたれ!」という言葉、これが、「すべての資本家、すべての資本家国の標語」なのです。だから、国と国民を蔑ろににする財界(「資本」)のみならず、自民党に執行権を任された「資本家国」の日本の「円高を阻止する」行動も、「資本」の富と雇用の海外への持ち出しを円滑に進めるための、その場しのぎの──われ亡きあとに洪水はきたれ!──という無責任な行動そのものなのです。だから、万一日本政府が「円高を阻止する」行動をとらなかったら、日本の「産業の空洞化」はより一層早いペースで進み、国民と財界(「資本」)・自民党との矛盾は激化していたことでしょう。
インフレ、円安、国富流出からの脱却の道
★佐々木氏は、次の「金融政策・財政政策に依存し過ぎず、現実を直視した構造改革の実行」という「節」では、「『アベノミクス・3本の矢』(*)がすべて実行されていれば日本は変わっていたかもしれません」と希望的観測を述べ、続く「『投資家目線の財政支出』への転換」という「節」では、「日本に投資・生産を呼び戻すための制度整備は、(政府がお金を出すより──青山の補足)むしろ発想と制度の設計こそ重要だと考えます」と言い、「必要なのは必ずしもお金ではなく、規制改革に向き合う覚悟や、新しい制度を作るためのアイディアのはずです。」といい、続けて「金額が先に決まっていると、担当者は『予算を使い切ること』が目的化し、本来優先すべき効果・効率性が歪んでしまいがちになります」と無能な上司と無能な「担当者」のいる職場の話をし、「インフレ、円安、国富流出が懸念されるようになった今、本当に必要なのは財政の『量(バラマキ)』の議論ではなく、「質」と「効率」の議論なのではないかと思います。」と述べて、この「節」は終わります。
◎上記のように、佐々木氏は、「第3の矢」が「実行されていれば日本は変わっていたかもしれません」と言いますが、アベノミクスの「三本の矢」の「第3の矢」とは〈規制緩和でビジネスを自由に!!!:民間投資を喚起する成長戦略…規制緩和等によって、民間企業や個人が真の実力を発揮できる社会へ〉というもので、安倍内閣は「規制緩和」によって新しいビジネスの余地を拡大し、民間投資の可能性をひろげ、新産業の興隆を図と「第3の矢」を「実行」したのです。安倍内閣は、抽象的な「規制」の「緩和」を求め、何だか分からない蜃気楼のような「新しいビジネス」の発見に期待をかけ、追い求めましたが、今、国民の印象に残っているのは「加計学園」が国家戦略特区を利用して「獣医学部を新設」できたことぐらいです。富と雇用の海外移転による「産業の空洞化」により国内での富の生産が減少し、日本の経済・社会全体の危機的な状況が限界を超えるところまで来ているのに、安倍内閣は「規制緩和」が「成長戦略」の〝肝〟でもあるかのような印象を国民に植え付けて、「規制の岩盤にドリルで穴を開ける」と言って国民の目を〝国富流出〟からそらせたのです。
●いまの日本に欠けているのは、分厚い中間層を擁することのできる分厚い産業構造です。利潤優先で海外に富と雇用を流出させさせて〝空洞化した国内産業〟を正常な姿に戻すことです。抽象的な「規制緩和」と蜃気楼のような「新しいビジネス」の発見に期待をかけても「成長」を保証することはできません。佐々木氏の言う「規制改革に向き合う覚悟や、新しい制度を作るためのアイディア」などという、これまた抽象的な言葉で現実を作り替えることはできません。そして、佐々木のいう「『質』と『効率』の議論」を官僚や族議員がどんなに一生懸命しても、実行するのは企業です。一円でも多く儲けるために国も国民も棄て去ることを厭わない企業にいくら甘い飴をしゃぶらせても、しゃぶる飴がなくなれば彼らはさっさと撤退してしまいます。
経済がグローバル化した今日において、米国のトランプ大統領のように力ずくで外国の企業(資本)を自国に持ってくることの出来ない日本は、日本の労働者の汗の結晶である日本の企業の富を日本国内で使うよう力ずくで企業に従わせて、ストレスを加えられた植物が立派な美味しい実を結ぶように、企業が社会的存在として立派に日本国民のために役に立つようにさせる以外に、グローバル化した経済の基では、他に道はありません。
(*)アベノミクスの「三本の矢」についての解説、顛末はホームページ3-3-4B「科学的社会主義の党の選挙政策」のP10を参照して下さい。
佐々木氏の言葉足らずの素晴らしい文章と残念な文章
★佐々木氏は、次の「節」:「実質賃金の引き上げのために必要な『新陳代謝』」で、「雇用や企業を守ることを最優先にした支援策を長く続けてきた結果、資本や設備、労働力が生産性の低い分野に固定され、これが実質賃金が上昇しない構造的要因のひとつとなっていると考えられます。」と述べています。
◎この佐々木氏の文章は「事実」の一部が継ぎ接ぎされて書かれていますが、その「事実」を引き起こした主体が省略されているたため、この継ぎ接ぎされた「事実」の責任の所在や問題の所在がわからなくなってしまいました。なので、佐々木氏の文章を生かし、「事実」の原因等の最小限の加筆により、上記の文章が言っていることを明らかにします。
「財界の方針を旗印に、企業が富と雇用を海外に輸出し、国内の「産業の空洞化」が進行するなかで、その弊害の尻ぬぐいをし、企業の海外直接投資を円滑に進めるために政府・自民党が雇用や企業を守ることを最優先にした支援策を長く続けてきた結果、国の借金は増加の一途をたどり、労働生産性を高めるための国内での資本や設備の増強をせず、「産業の空洞化」によって製造業から閉め出された労働者(*)が労働集約型のサービス業での就労を余儀なくされ、その結果、労働力が生産性の低い分野に固定され、これが実質賃金が上昇しない構造的要因のひとつとなっていると考えられます。」
☆このように補筆すると、「実質賃金が上昇しない構造的要因」とは企業による富と雇用の海外への輸出による国内「産業の空洞化」であり、現状をつくった共同正犯は財界と政府・自民党であることがハッキリわかります。
★なお、この素晴らしい内容を穏便な文章に仕上げた佐々木氏は、続けて、「日本では、市場からの退出を回避できるよう、企業の維持・延命を目的とした補助金が支給されたり、制度融資が行われてきました」とも言います。1922年に日本銀行に入行され、為替市場等を担当されたという佐々木氏は、残念ながら、当時のナマの企業の状況を十分に把握されていないようです。
◆1995年以降、設備投資は低迷し、GDPが伸びないなかで、1990年代後半にS県の商工担当部長を務めた人が──靴を何足もすり減らして一生懸命企業誘致をしても企業件数は減少するばかりだとこぼしていた──という話をS県の職員から、以前、聞いことがありますが、S県の2009年の工業統計調査によれば、2000年から2009年までの十年間で事業所数が19223から13607へと5616事業所の減(29.2%減)となり、従業員数は478179人から392013人へと86166人の減(18.0%減)に削減されるという恐るべき製造業の実態が続いていました。
★佐々木氏がこのような実態を把握していれば、先に見たような言葉は出ないはずです。幸い、佐々木氏は、現在、「ふくおかFG」に勤務されているとのことなどで、当時を知る70歳代の相談役の方がいれば、尋ねたみることをお勧めしたい。
◆この「項」の最後の「節」は「リーダーが頻繁に変わる国に改革はできない」ですが、日本で頻繁に総理大臣が変わるのは、国民に美味しいことを言うけれど政府が国民のための政治を行わないために支持率が低下したとき、総理大臣の顔を変えて化粧直しをして国民の期待をつなぎ止めるための財界と自民党の取る戦術であり、国民のための国の改革など彼らの眼中にはありません。だから、佐々木氏のようにまともに考えること自体無意味なので、佐々木氏のお考えに口を挟むつもりはありません。
(*)就業者の傾向を理解するための補助的手段として、手元にある経産省資料の図表から数字をアバウトに割り出してみました。
★1955年当時、就業者数が約750万人前後と製造業と同程度であった卸売・小売・飲食店は着実に増加して2005年には約1500万人となる。
★また、1955年当時、約500万人弱だったサービス業も着実に増加し、90年代に製造業を抜き就業者数が首位になり、2005年には約1900万人強となった。
★そして、1955年当時、約750万人前後であった製造業は1973年までは急増し約1400万人(従業者数1196万人)になり、その後1979年には約1350万人(同、約1100万人弱)と若干減少したあと再び上昇して1990年に約1500万人(同、1179万人)となり、1970年から1995年まで、25年以上にわたり1400万人弱から1500万人(従業者数、1200万人弱から1100万人弱)の雇用水準を保っていたが、その後(1995年以降)雇用は急減し、5年毎に約90万人ずつ減り続け、2005年には約1150万人(従業者数、約850万人)となってしまいました。
玉石混交の文章
☆いよいよ、フィナーレ、佐々木氏の著書『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』の最後の「項」である「日本の失われた30年を取り戻すために④:国際感覚を失わず、多様性を受け入れよう」を見ていきましょう。
★佐々木氏がこの「項」で述べられていることは、最後の「首相が夜中に働くと批判される日本」という「節」を除けば、至極ごもっとものことが述べられています。しかし、「介護、外食、物流、建設、農業など、多くの産業で外国人がいなければ日常生活を維持できなくなっています」とのべて、これらの職種の外国人労働者が「〝必要不可欠な存在〟」であることを認めているにもかかわらず、これらの人たちに日本で働いてもらううえでの制度上の課題等については全く触れずに「不動産価格の上昇」を「外国人問題にすり替えてはいけない」などと言うだけでは、日本にとって〝必要不可欠な存在〟として働いていただいている外国人労働者の方たちへの共感と感謝の気持ちがいささか欠けているようにも思えます。
★「首相が夜中に働くと批判される日本」という「節」の冒頭で、佐々木氏は、高市首相が国会答弁のための勉強会を午前3時から行ったことに対し、「深夜に呼び出されたスタッフ」からではなくマスコミや野党から「深夜にスタッフを呼び出すのは迷惑だ」との批判が出たことを述べています。そして、この「節」のタイトルは「首相が夜中に働くと批判される日本」です。
◆この文章には幾つかの認識の不足があり、その結果、「首相が夜中に働くと批判される日本」という結論が導かれています。
まず第一に「答弁のための勉強会」を「午前3時から行う」必然性などまったくありません。そして、答弁書の作成に関わるのはそのとき「呼び出されたスタッフ」だけではなく、その「勉強会」に関わるすべての「課」のすべての関連部署が待機しなければならず、霞が関は「不夜城」と化して、莫大な人的・物的な浪費を行っています。
次に、「深夜に呼び出されたスタッフ」から直接批判が出ないのは、意気に感じる人もいるかもしれませんが、批判などしたら「ノンキャリア組」は地方支分部局に飛ばされ「キャリア組」は将来に暗雲が立ちこめます。だから、公務員をやっている以上、口が裂けても直接「批判」など出るわけがありません。
そして、夜中の「答弁のための勉強会」は「夜中に働く」必然性のある仕事をしているわけではありませんから、生産的な労働をしているわけでもありません。明日の答弁のために自分の頭を整理するするための「勉強」です。ですから、「首相が夜中に働くと批判される日本」などと言ったら、世界中から、〝だから日本はダメなんだ〟と揶揄されるだけでしょう。
私たちが『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』から学ぶべきこと
★佐々木氏は、本書の最後「おわりに」で、「本書で様々な日本経済の問題点を指摘しましたが、それらが今のまま変わらずに14年後を迎えるならば、日本経済はかなり苦しい状況に陥っているでしょう。ただ、日本がなくなることはないですから、あまりに苦しい状況になれば、途中で大きな変革が起きて、14年後の時点ではむしろ良い方向に向かっているかもしれません。」と述べ、続けて、「これまで34年近いキャリアの中で出会った人々」と伴侶である淳子様への感謝の言葉を記して「筆を置」いています。
資本主義的生産様式の社会において経済を発展させる燃料である「貨幣資本」に転化する「貨幣」を扱うことをなりわいとする金融界に身を置き、「貨幣」を見続けてきた佐々木氏は、著書『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』の「おわりに」で、日本経済の復活のためには〝大きな変革〟を起こす以外に道のないことを、遠慮がちに、私たちに耳打ちしてくれたのかもしれません。
★佐々木氏は、「支配階級の思想はいずれの時代においても支配的思想である。」(マルクス=エンゲルス共著『ドイツ・イデオロギー』)ということを痛切に感じる続けてきたであろう業界に居て、著書『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』で示したたくさんの事実によって「この世のなかで腐敗したものは、すべて、それだけの理由があって腐敗したのである」(大月版『資本論』① P344ヘーゲル『哲学体系』、第一部、『論理学』からの引用)という文章がピッタリあてはまる日本経済の惨憺たる現状を丸裸にしてくれました。佐々木氏の著書『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』は富を生み出す者が搾取されるという転倒した社会が生みだす転倒した意識の中で生活している私たちに日本の生活実態を示すことによって、「意識が生活を規定するのではなくて、生活が意識を規定する」(『ドイツ・イデオロギー』)きっかけを与えてくれました。
日本経済を復活させるための〝大きな変革〟は、私たち労働者階級が『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』で示された日本国民の生活実態とその原因を正しく認識して「支配階級の思想」を克服し、「資本」の力をそぎ落としたとき実現します。
私たちが米国トランプ大統領から学ぶべきこと
★「資本」は強制されない限り一円でも多く儲ける道を選び、国が補助金を出して事業を支援しても、その事業の継続を義務づけなければ他により儲かる事業があればそちらにシフトします。帝国主義国である米国のトランプ大統領は、他国の「資本」を力任せに無理矢理米国に来させることによって自国の資本主義を発展させる道を選びました。そのような腕力のない国が、経済がグローバル化したなかで企業と国家・国民との折り合いを付けるためには、企業に強制的に国内に投資をさせ、強制的に社会的責任を果たさせる以外に道はありません。そして、この強制を成功させるための鍵はこれらの企業で働く労働者階級の自覚にかかっています。
◆だから、日本経済を復活させるための〝大きな変革〟を実現させるためには、ある特定政党が議会で多数派になるなどというちっぽけな、革命運動(=労働運動)を発展させることを忘れてしまった、矮小化された、誤った思想を克服して、広範な国民の統一戦線を築くことが必要なのです。※
※先日(2026/06/07)、埼玉県の北浦和公園で「オール埼玉総行動」という催しがあり、埼玉弁護士会、連合埼玉、埼労連の後援のもと、立憲民主、共産、社民、れいわ、新社会の各党の「あいさつ」及び前川喜平さんの「ゲストスピーチ」が行なわれたとのことです。この集会で「あいさつ」した政党、後援した労働組合が統一戦線を結成し、前川喜平さんのような行動する知識人を含む各界で活躍する方たちを押し立てて国民的な政治・経済・イデオロギーの変革をめざす運動を展開してはじめて日本経済を復活させるための〝大きな変革〟を実現させる、と青山は考えています。